特別研修講座
平成19年11月13日(火)18時30分から、「金融商品取引法~上場会社のリーガルリスク管理のために~」と題し、研修講座を開催いたしました。親和全期会では、通年の企画として研修講座を開催しており、本年度も既に3回実施し各回とも盛会でありましたが、今回は、同じく東京弁護士会内の若手会員の集まりである法友全期会所属の竹内朗先生を講師にお迎えし、法友全期・親和全期両会共催の「特別研修講座」として、広く両会会員に参加を呼びかけた結果、参加申込者120名を超える大盛会となりました。

竹内先生は、本講座のテーマである金融商品取引法のほか、リスク管理、コンプライアンス、会社法、民事介入暴力対策、個人情報保護法等をご専門とされ、ご自身、株式会社日興コーディアルグループ法務部に勤務し証券会社・上場会社としての法務に企業内弁護士として携わった経験をお持ちであり、かつまた、本講座同様の講演会・研修会で講師を務めたご経験も豊富であり、当日は、専門的な内容を、わかりやすく、また実務的な話題を随所に織り込みつつお話しいただきました。

当日配布されたレジュメは、附属資料を除く本体だけで46頁の大部なものでしたが、イラストや表が多数挿入され、内容はもちろん視覚的にも工夫がこらされたご労作でした。 そのレジュメの冒頭に、「本日のテーマ」として、
・「『上場会社法』ともいうべき金融商品取引法のリーガルリスクを体感する」
・「上場会社の法務担当者が知らなければならない知識(不公正取引規制、開示規制)と知らなくてよい知識(業者規制)を区別する」
・「具体的な違反事例や判例を知り、適法と違法の境界線をイメージする」
・「昨今リスクが高まっているインサイダー取引規制をしっかり理解する」
の4項目が掲げられており、各テーマに沿って、お話が進んでいきました。その一部を、「昨今リスクが高まっているインサイダー取引規制をしっかり理解する」に関するお話の中からご紹介いたします。

このテーマでは、まず、インサイダー取引の概念について、「インサイダー取引とはどのような取引か」「インサイダー取引はなぜ規制されるのか」「インサイダー取引は、誰が禁止されるのか」「インサイダー取引は、いつから禁止されるのか」「インサイダー取引は、いつまで禁止されるのか」「適用除外になるのはどのような場合か」等の問に対する答えとして、「情報の格差」をキーワードとして、明快にご説明いただきました。
次に、インサイダー取引の成立要件について、長文かつ複雑な法第166条1項、同167条1項をシンプルに整理して分かりやすく解説されました(例えば166条1項については①重要事実を知った②会社関係者が③公表される前に④特定有価証券等を⑤売買等すること)。幾つかの要件については、実際にインサイダー取引規制に違反した事例も併せてご説明いただきましたが、私が興味深くお聞きしたのは、「重要事実」の発生時期に関して、例の「・・・徹底した利益至上主義には慄然とせざるを得ない」の判示で物議を醸した村上ファンド事件東京地裁判決(平成19年7月19日)に関するお話でした。同判決で、もう一つ物議をかもした「『公開買付け等を行うについての決定』をするに当たり、当該公開買付け等があれば確実に実行されるとの予測が成り立つことは要しない。すなわち、実現可能性が全くない場合は除かれるが、あれば足り、その高低は問題とならない。」との判示についての先生のご理解は、判決は従前の司法判断よりも処罰範囲を拡大したもののように受け取られているがそうではなく、平成11年6月10の最高裁判決(日本織物加工事件)の「・・・右決定をしたというためには右機関において株式の発行の実現を意図して行ったことを要するが、当該株式の発行が確実に実行されるとの予測が成り立つことは要しない」との判断の延長線上にあり、結論の前提となる事実認定も、「・・・現実に5%買い集めに必要な資力や、ライブドアの財務状況、資金調達能力、同社が現実に大量の買い集めを実現させたこと等に照らせば、同社がニッポン放送株を大量に買い集める決定が実現する可能性はかなり高かった」という手堅いものであり、同判決は、平成11年最判を踏み越えるものではないと考えられる、というものです。判文には、先生もご指摘の「言い過ぎと言えば言い過ぎ」の表現もあったと思いますが、事実認定は堅実で、拠って立つ規範も従前の司法判断を逸脱しているわけではなかったことが良く理解できました。

以上のようなお話の後、会社業務においては、意図的なインサイダー取引のほか、例えば重要事実の決定時期を誤解すること等により生じる、いわゆる「うっかりインサイダー」など、数々のインサイダー取引のリスクがあり、これを防ぐためには、事前に「内部者取引管理規程」「適時開示ガイドライン」を策定・実施する等の「周知徹底」、ある部署で重要事実が生じたらその部署の管理職から適時開示担当部署ないし機関に直ちに連絡させたり、他の部署に無用に情報を伝達しないよう情報隔壁(チャイニーズ・ウォール)を設けたりする等の「情報の伝達と管理」、適時開示担当部署ないし機関において、適時開示を行うか、どのように開示するかを決議したり社内での情報管理、関係者の売買監理など必要な事項を決議し必要な部署に指示する等の「機関決定」、ディスクロージャー委員会の決議に従い速やかに証券取引所に適時開示の手続きをしたり、売買禁止期間を短くすることでインサイダー取引のリスクを軽減する等の「適時開示」などが必要であるとの、具体的な方策についてのお話がありました。
因みに、インサイダー取引は、証券取引所の売買審査部門が常に市場を監視し、証券取引等監視委員会に報告しており、具体的には、一次調査として、重要事実が公表された全銘柄を調査し、公表前後の値動きを調べ、二次調査として、発行会社と証券会社の双方に取引照会し、怪しい取引者を抽出し、三次調査として、怪しい取引者の詳しい属性や注文状況を調査するという、言ってみれば「日本のどんな片隅で行った取引でも発覚する可能性がある」ほどに周到かつ徹底したものだそうです。

2時間に及ぶご講演では、以上のインサイダー取引に関するお話の他、金融商品取引法の全体構造や隣接法規との関係、いわゆる日本版SOX法について等、広範かつ濃密なお話がありました。詳細は割愛させていただきますが、お話全体を通じて、金融商品取引法改正の背景にある「貯蓄から投資へ」の大きな流れに伴う資本市場の公正性・信頼性確保の要請の強まり、それに応じた経済事犯への厳罰化傾向、規制当局の積極姿勢の明確化傾向、企業法務部と企業法務を扱う法律家によるリーガルリスクの管理と適切なリーガルサービス提供の必要を、強く意識させられました。

講演終了後は、弁護士会館地下の「大平」で懇親会を行いました。こちらの方も、法友全期会の諸先生方が多数参加され、当会会員共々、竹内先生を囲み、和やかに懇親いたしました。
両会の今後の更なる交流に繋がるものとしても意義深い研修講座でした。


【文責:親和全期会執行部 廣瀬正司(二一会・51期)】 |