ケーススタディ「不動産取得税課税処分取消訴訟」
第4回 ―行政訴訟の提起と結末―
佐々木 広行
第1 行政訴訟の提起
1 東京高裁への訴訟提起
1) 事前準備
① 私が受任した訴訟(課税処分取消訴訟)では事実関係については当事者双方に争いがなく、訴訟上争点となったのは非課税規定の解釈と適用でした。
これまで述べてきたところからお分かりいただけると思いますが、争点は私の依頼者が行った行為(それは、共有していた10部屋からなる1棟のマンションにつき、各戸に区分所有登記をしたうえで、5戸ずつ分け合った行為)につき、非課税規定(地方税法第73条の7第2号の3)が適用されるかどうかのただ一点です。
② このように法令の解釈及び適用が争点となる場合、訴訟代理人としては「当該規定の立法趣旨は・・・である。そして、課税された本件行為は・・・である。であるから、本件行為にも当該規定が適用されなければおかしい。」というような解釈論を展開することになります。
結局、この手の裁判は原告と被告が論理と論理をぶつけ合うことになります。しかし、ただ訴訟代理人が自説を論じるだけでは駄目で、同じ見解をほかの専門家も有しているということを主張することにより自説を補強したほうが裁判所にも受け入れ易くなるはずです。
そこでこのような場合、その筋の専門家(大学教授、実務家など)に自説の正当性を支えてくれるような意見書を書いてもらうということが行われていると思います。
訴訟提起前の準備行為として、私は自説が正しいかどうかについて、大学教授、税理士、都税事務所に勤務した経験のある方の三人から意見を聞くことを行いました。
大学教授からは純粋に学問的見地から本件を見たらどうかを、税理士さんには税金を取られる側の立場に立つ人からの意見を、都税事務所に勤務した経験のある方からは税金を取る側の立場から見たらどうかというようにいろいろな立場からの意見を聞くためです。
税法の専門家(ある程度名の知れた大学教授がよいかと思います。)は知人に紹介してもらい、その方に訴訟提起前に自説が専門家から見て筋が通っているかどうか教えてもらいました。幸いに、その方からは賛同を得ることができましたので、専門家として私どもの見解に賛同すると同時に、それを補強するような意見書を作成していただきました。当然、それは証拠として提出しました。
実務家(本件では税理士、公認会計士)から見たらどうかということは、具体的には、ご承知の方が多いでしょうが、全国的な税理士組織として「TKC」というものがあります。TKCには全国の会員から税務全般について質問を受け付け、公開で その質問に回答するというサービスがあります。そのサービスを利用して、全国の税理士さんに今回の私たちの見解をぶつけてみたわけです。その結果も私たちに好意的なものでした。
最後に、都税事務所に勤務した経験のある方からは税金を取る側の立場から見たらどうかということを聞きました。この方も知人の紹介してもらったのですが、幸いにも私どもの立場に賛同していただけました。
2 訴訟提起後の都の対応
本件訴訟の管轄は東京高等裁判所にあります。
1で書いたとおり、かなり事前準備をして意気込んで訴訟を提起したのですが、訴えの提起後しばらくして都(総務局総務部法務課が担当となっています。)から自発的に課税処分を取消し、納税額に還付加算金(これはいわば利息です。)を付加して返還するので、訴えを取消して欲しいとの申入れがありました。
私も依頼者も法令の解釈・適用が争点の訴訟であったので、行政としては徹底的に争ってくるものと予想していたので、これは全く意外なことでした。
都の申入れは、都自ら課税処分取消決定を出し、還付加算金を付加した上で全額返還するというものです。本件では減額後確定額0円とする不動産取得税取消決定を出すということです。
若干、敷衍すると、不動産取得税を課税する場合、課税標準額を決定した後に納付税額を算出しますが(例えば、課税標準額500万なので納付税額は15万というように)、例えば、都が課税標準額が400万円であるところを誤ってこれを500万円と過大に評価してしまった場合、都は課税処分を自ら取消し、課税標準額の現在確定額500万円→減額後確定額400万円、納付税額の現在確定額15万円→減額後確定額14万円、などというように変更することができます。
本件では課税すべきでないところを課税してしまったわけですから、決定書の記載は「課税標準額の現在確定額500万円→減額後確定額0円、納付税額の現在確定額15万円→減額後確定額0円」というように訂正されます。このとき「摘要」という原因を記載する欄には「誤謬訂正」と記載されます。
つまり、形式的には、都が自ら新しい課税処分を行い私の依頼者に通知するということになります。
3 取消決定の受け入れ(事実上の和解の成立)
訴訟自体は既に受理されているわけですから、私の依頼者としてはあくまで訴訟手続で雌雄を決するという選択肢もあったわけですが、納付税額が全額取消され、一度は納めた税金全額に還付加算金が付加されて還ってくるわけですから、所期の目的は完全に達成されることになります。都の面子も考え、全額が還付されたことを確認した後に、訴訟を取下げました。
なお、依頼者が欲したこともあり、都に対しては書面で訴えの取下げを要請する書面を、今回の課税処分が間違いであったこと、すなわち課税すべきでないケースであったことを認める内容の文言を含ませたうえで送付してほしいと申し入れたところ、都からはそのような書面をいただきました。
都も内部で検討し、今回の課税処分が相当でないという結論に達したものと思われますが、ではそれが今後の徴税実務にどのように影響を与えるのかは今後の徴税実務を注視していないとわかりません。
第2 地方税法73条の7第2号の3(共有物を分割した場合の非課税規定)と建物の分割
1 不動産取得税というのは税額がそれほど高くない(?)こと、その性質が流通税であるため課税された方も最初から諦めの気持ちがあるのでしょう、あまりその課税処分を巡って紛争が生じることはありません。
また、地方税法73条の7第2号の3の適用を巡って訴訟となった事案はいずれも土地に関するものであり、建物に関するものは私の調べた限りでは皆無です。
建物に関する事案がないのは、土地に比べて建物については「分割」ということが通常行われないこと(土地は合筆、分筆などが頻繁に行われています。しかし、建物についてはこれを分割するということは想定しにくいものです。普通の一軒家ではこれを分割するということは行われません。しかし、アパートやマンションのように区分所有できる建物については別です。)と前述のように不動産取得税というのは税額がそれほど高くないのであえて時間と労力をかけてまで不服を申し立てるのは逆に損をするという損得計算があると思われます。
しかし、例えば、親子や兄弟などでお金を出しあい、アパート経営やマンション経営を始めるということは少なからず行われていることです。例えば、マンションを建築したときには共有にしていたものが、その後の事情により当該マンションを分割しようと考えるに至るということもけっしてありえない話ではないはずです。そのような場合、上手に分割すれば不動産取得税の課税を免れることができます。
なにより、本件の依頼者が経験したことですが、建物分割に対する非課税規定の適用ということは徴税事務を行っている都税事務所、県税事務所の担当者はほとんど理解していないでしょうから、本来妥当な課税標準額を超えて不当な課税標準額を設定してくる可能性が極めて高いでしょう。
2 法73条の7第2号の3(共有物を分割した場合の非課税規定)と建物の分割に関するまとめ
長々と書いてきましたが、本稿のエキスといいますか、弁護士としてはこれだけ覚えておけばよいということを以下にまとめます。
・ 不動産取得税は地方税法の定める税で、流通税であるが非課税規定がある。
・ 非課税の場合とは、共有者が共有物を分割した場合である(従来の持分よりもたくさんもらった側には、従来の持分を超えた部分については課税されます。)。
・ 非課税規定は土地が分割されたときだけでなく、建物が分割されたときも適用される(建物を分割するとは、当該建物を区分所有することである。)。
・ 全体を共有しあっている1棟のマンションにつき、各戸を区分所有登記をしたうえで、取得後の専有面積が等しくなるように分け合った場合、非課税規定の適用がある。
第3 最後に
1 第3回でも書きましたが、行政不服審査法は代理人による不服申立を認めており(12条)、ここで「代理人」とは弁護士に限定されていませんから、申立人の意思によりいかなる人を代理人として選任するかは自由です。
しかし、実際には行政機関を相手にして行政処分の違法性を糾弾するわけですから、事案に応じてその事案に必要な専門知識を有した者でなければ代理人としては相応しくないはずです。また、行政訴訟となればこれは事実上弁護士しかできないでしょう。
仮に、ある人が自己に課された行政処分を不服として、行政相手に是正を求めたいと思うならば、審査手続の段階から弁護士を代理人として立て、審査手続において満足のいく結果を得ることができなければ、その弁護士に引続いて行政訴訟まで担当してもらいたいと思うのが一般的であろうと思われます。他方で、今後は弁護士も「審査手続から行政訴訟までの一連の手続において代理人として働きます。」といえないと頼りにされないのではないでしょうか。
本件では、私の依頼者は審査手続では不服申立を却下され、課税通知記載とおりの税額額を支払うよういわれたわけですが、訴訟を起こしたら即座に今度は一円も課税してはいけない事案でしたといわれ、納付した税金が利息付で還ってきたわけです(今でも、あの審査人らはなにを考えていたのか、実は何も考えていなかったのではないかと思うときがあります。)。裁判のように緻密な証拠調べを行うわけでもないので、審査手続というのは意外とあてにならないということです。
課税処分に対する不服などは市民生活を網羅し遂行される行政処分のほんの一部にしか過ぎません。
肥大化した行政による権利侵害から市民を保護するという観点が強く意識されている今、また、今後は弁護士業界も競争が激しくなるのですから、これからの弁護士は行政訴訟に対して苦手意識を持っていてはダメで、「この分野なら行政相手の訴訟でも審査請求でも任せておけ!審査手続から行政訴訟までの一連の手続において代理人として働きます。」といえるような得意分野を持つことが必要になるのではないでしょうか。
以上
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