ケーススタディ「不動産取得税課税処分取消訴訟」
第3回 ―審査手続の実態―
佐々木 広行
第1 審査手続
1 審査機関と書面審査
審査手続はご承知のとおり行政不服審査法に則り実施されます。
行政不服審査法は全58条からなる法律ですから、条文の数も少なく、勉強するにはさほど時間のかからない法律です。
余談ですが、行政不服審査法を含めて行政活動に対する私人の不服の解消に関するルールの総体を「行政救済法」と呼びますが、行政救済法(国家賠償法、損失補償法、行政手続法、行政不服審査法、行政事件訴訟法)を勉強するときの入門書として最も適していると思われるのが「条文から学ぶ 行政救済法」(有斐閣 高木光ほか著)ではないかと思います。
審査機関は原則として処分庁の直近上級行政庁となります(行政不服審査法5条2項)。
また、審理の方式は原則として「書面審理」とされています(同法25条)。
2 審査請求書と答弁書(弁明書)
1) 審査手続は審査を求める側が「審査請求書」を提出することから始まります(9条、15条)。
これに対して相手方となる処分庁は「弁明書」を提出し反論します(22条)。
書面の名称こそ異なりますが、この辺のやりとりは訴訟における訴状・答弁書のやりとりと同じと考えて構いません。
処分庁から反論書が出てきた後は、審査請求人は必要とあらば「反論書」を提出し反論します(23条)。
2) 審査手続においても、通常の訴訟のように証拠書類を提出することが認められていますし(26条)、事案によって必要とあらば参考人に事実を陳述させたり、鑑定を求めることもでき、さらには検証をすることもできます(27条。28条)。
3) 審査手続は最終的には「裁決」により終了します(審査請求人が審査請求の取下げを行うことができることはいうまでもありません。)。
裁決には、却下裁決、棄却裁決、認容裁決、変更裁決、事情裁決があります(40条)。
前三者については説明を必要としないでしょうから、変更裁決と事情裁決についてのみ簡単に説明しますと、変更裁決とは審査庁が処分庁の上級行政庁である場合に、単に係争処分の取消しを命じるだけでなく、自ら別種の処分を審査庁自らが行うという内容の裁決で、いうなれば「破棄自判」のようなものです。
事情裁決とは事情判決と同じようなもので、係争処分は違法であるから本来取消されるべきものであろうが、当該処分を取消すことによりかえって関係する第三者の重大な利益や多数人が係わる共通の利益を侵害することが明らかな場合には、裁決の主文で係争処分が違法または不法であることは宣言しつつも処分自体は取り消さないという内容の裁決です。
3 訴訟へー裁決取消し訴訟と処分取消訴訟―
審査手続において下された裁決の結果に不満があるときは訴訟を提起することができます。
この場合、理屈の上では、裁決の取消しを求める訴訟と処分の取消しを求める訴訟を起こすことができますが、裁決の取消しを求める訴訟については不服申立の対象とした処分が違法であることを理由とすることはできません。ですから、課税処分が違法であるということを訴訟の場で争うのであれば、課税処分の取消しを求める訴訟を起こすことになります。
なお、いずれの訴訟でも裁決があったことを知った日の翌日から起算して60日以内に審査庁(本件事案では東京都)を被告として提訴することになります。
4 審査手続と弁護士業務
以上、簡単に手続の概要を述べてきましたが、それではこの審査手続に弁護士はどのように関与できるのかということについてごく簡単に触れたいと思います。
まず、行政不服審査法は代理人による不服申立を認めています(12条)。
同条にいう「代理人」とは弁護士に限定されていませんから、申立人の意思によりいかなる人を代理人として選任するかは自由です。
しかし、実際には行政機関を相手にして行政処分の違法性を糾弾するわけですから、事案に応じてその事案に必要な専門知識を有した者でなければ代理人としては相応しくないはずです。前記のとおり、審査手続は原則として書面審理主義を採用しています(25条)。ですから、自らの主張を適格に文章で表現する能力がなければ審査手続では戦うことができません。
統計を見たわけでありませんが、実際、国税、地方税を問わずおよそ課税処分の適法性、妥当性を争うような審査手続にはやはり当初から弁護士や税理士あるいは公認会計士のように専門知識を持った専門家が代理人としてついているのではないでしょうか。
行政の及ぶ範囲は市民生活の隅ずみにまで及んでいますから、今後、市民の権利意識が高まり(行政が間違えるわけがない、行政が相手だからケンカしても無駄だ、という「お上意識」に基づく不必要な遠慮がなくなったらという意味ですが)、行政救済法の存在、利用価値が市民の間に浸透していけば、弁護士の活躍する場(弁護士の職域)が増えるのではないでしょうか。
私は課税処分を争う審査請求に関与したわけですが、誰でも代理人になることができるといっても、行政相手のしかも法律問題が絡んだケースでは司法書士や行政書士では行政相手に戦い切れないと思いました。
将来的には、審査手続から行政訴訟までの一連の手続において代理人として働きます、ということのできる弁護士がこの有望な市場に進出できるのではないでしょうか。
第2 本件における審査手続
前記のとおり、審査手続は原則として書面審理主義を採用しています(25条)。
本件では、審査請求人(A社、B社)の不動産の取得経緯、分割の経緯などの事実関係については争いとなるようなところはありませんでした。
同一の事実関係をもとに、「その場合でも課税できる」と主張したのが処分庁であり、「この場合には地方税法73条の7第2号の3(共有物を分割した場合の非課税規定)の適用を受けるので課税されない」と主張したのが審査請求人です。
すなわち、純粋に条文解釈を巡る法律論争であったわけです。
審査手続における双方の主張を簡単にまとめておきます。
1 処分庁の主張
① A社とB社は共有していた本件マンション(全戸数10戸)を、区分所有権を設定した上で、各自が5戸ずつ取得すべく分割した。しかし、本件マンションについて、分割請求できない共用部分が、分割後においても、A、B両社の共有のままとなっている。
② 共有物分割が非課税とされている趣旨から考えても、本件は地方税法第73条の7第2号の3に該当しない。
③ 敷地については、区分所有建物となった各戸に対して敷地の持分を割り当てるようにして分割した。しかし、これは具体的な取得位置が特定されない敷地権の持分取得である。
2 審査請求人の主張
ア 地方税法73条の7第2号の3(共有物を分割した場合の非課税規定)にいう「不動産」には「建物」も当然に含まれる(同法は土地の分割のみを想定した規定ではない。)。
イ 本件マンションは建物であるから、A、B社らが本件マンションを分割しようとしたら、一物一件主義との関係から法律的には区分所有権を設定するしかない。A社とB社は、まず各戸の専有面積を調べ、各自が取得する部屋の専有面積がほぼ等しくなるように分け合った。
その結果、A社が取得した5戸の専有面積の総和は、B社が取得した5戸の専有面積の総和より、1.5平方メートル多いだけだった。
ウ 処分庁の主張①に対して
一棟の建物について区分所有という形態をとる以上、建物の区分所有等に関する法律により共有部分が発生することは法律が当然に予定していることである(第4条、11条、14条)。そのうえで、共有部分の持分の割合についても規定している(第14条)。
であるから、「分割請求できない共用部分が、分割後においても、審査請求人らの共有のままとなっている。」ということは主張としておかしい。
そもそも、共用部分が生じないように区分所有権を設定することは不可能であり、共用部分が生じればそれだけで地方税法第73条の7第2号の3の適用外になるというのであれば、同条文は共有物が建物である場合を想定していないと理解するに等しい結果になるが、それでは共有建物を分割する場合にはその実態が形式的な所有権の移転に過ぎない場合でも常に課税されることになり、国民の財産権を不当に制限することになる。
仮に、A、B社に不動産取得税が課せられるのであれば、地方税法73条の7第2号の3は建物の分割を想定していないといわざるを得ないし、A、B社は同じ不動産について同じ税を二度課税されることになる。
エ 処分庁の主張②に対して
「共有物分割が非課税とされている趣旨から考えても、本件は地方税法第73条の7第2号の3に該当しない。」という主張は「結論」のみを述べているに過ぎない。
オ 処分庁の主張③に対して
公知の事実であるが、通常、マンションのような区分所有建物というのは各区分所有建物に付随する敷地利用権を敷地権の持分で取得する。
具体的な敷地利用権の対象地を決めることが無意味だからである。
3 裁決の内容
結論を先にいうと、裁決は棄却裁決でした。
以下に、審査庁が示した棄却の理由部分を抜粋しますと、
① これを本件についてみると、全部事項証明書(建物)によれば本件建物(本件マンションのことです。)は・・年・・月・・日、区分登記がなされていることが認められるから、同日から、本件各家屋は、区分登記された複数の階にまたがる本件建物の各専有部分及び共有部分(以下、「各専有部分等」という。)であり、それぞれの各専有部分等が共有されているものである。
② そうすると、そもそも本件各家屋は、概念的には、本件各専有部分等ごとに請求人等がそれぞれ等しく持分を有しているものと考えられ、その場合の非課税となる持分を超えない共有物分割とは、それぞれの家屋を完全にそれぞれの持分で分割することを意味するものと考えられるが、そもそも各専有部分等をそれぞれの持分の範囲内で分割するという概念そのものが考え難いばかりか、本件建物が一棟の建物であるとしても本件各処分の対象となる本件各家屋について請求人等が共有している一個の不動産とは言えないことや請求人等がそれぞれ取得した本件各家屋も複数の階にまたがっていることからして一体としたものとはいえないことから、隣接する複数の土地を一体ととらえて持分に応じた分割をしたと同様とも言えないから、本件各家屋の持分の取得を非課税となる共有物分割には該当しないものと言わざるを得ない。
③ また、通常家屋の取得に連動する敷地権の持分取得である本件土地の取得も、上記で述べたように、本件各家屋の取得が持分を超えない取得とは言えないことや敷地権の取得は、持分割合での取得であり具体的位置が特定されないことからしても、同様に持分を超えない共有物分割ということはできず、非課税には該当しないものといわざるを得ない。
と裁決しました。
4 少々、日本語としておかしいところもありますが、審査庁のいわんとしているところは大体読んでお分かりしていただけたと思います。
一つ目のポイントは、審査庁は、A社とB社が本件マンション(裁決書では「本件建物」と呼ばれている。)の10戸につき区分登記をした時点で(すなわち、10戸の独立した不動産ができた。)、A、B社はまず10戸の各部屋を共有している状態になるとの理解を示しています。つまり、A社とB社は最初は一棟のマンション全体を半分ずつ共有していたわけですが、各部屋が区分登記され独立の不動産となった時点では、今度はそれら独立の不動産となった各部屋を半分ずつ共有することとなったというのです。そして、非課税扱いとなる共有物分割とは、これら各部屋を更に二つに分割した場合だというわけです。
しかし、いうまでもありませんが、一つの部屋を更に二つに分割するということなど誰もしません。審査庁自身が「・・そもそも各専有部分等をそれぞれの持分の範囲内で分割するという概念そのものが考え難いばかりか・・」とそのような分割を行うことが通常ありえないことだと認めています。
そもそも、請求人であるA、B社が区分登記をしたのは、そうするしか本件マンションを分け合う方法がないからです。
つまり、区分登記(区分所有権の創設)というのはあくまで本件マンションを分割するための手段でしかありません。土地ならば分筆という方法でいくらでも、またどのようにでも分割できますが、同じ不動産でも一棟の建物を分割しようと思ったら、区分登記するしか方法はないわけです。審査庁が裁決において述べた理屈によれば、共有建物を分割する場合には非課税規定が適用される余地がなくなり、事実上、非課税規定は建物の分割を想定していないということになってしまいます。これはおかしなことでしょう。
二つ目のポイントは、第2回目の「第2 3」で書きましたが、土地の場合、数筆の土地を合筆しないまま一体の土地として捉えて、分け合った場合、それら複数の土地が①相互に隣接しており②共有者が同一で、かつ③持分割合が同じであるときには、合筆をして1筆の土地にしてから分け合おうが、合筆しないで分け合おうが経済的に見れば同じことですから、いずれの場合でも不動産取得税は課税されないという解釈を、本件マンションにも適用できるか否かという点です。
この点に関して、裁決では「請求人等がそれぞれ取得した本件各家屋も複数の階にまたがっていることからして一体としたものとはいえないことから、隣接する複数の土地を一体ととらえて持分に応じた分割をしたと同様とも言えない」としています。
この部分は少々苦しい理屈を述べているなと思いますが、この点は人により意見の異なるところでしょう。
ところで、私は当初、「裁決」では訴訟における「判決」のように、請求を棄却するならば、請求人の主張はどこがどうおかしいのか理由中で指摘してくれるものと思っていましたが、そういうことはありませんでした。
いずれにしましても、審査請求人の請求は棄却されたわけです。
そして、争点は地方税法第73条の7第2号の3(非課税規定)の解釈論に尽きますから、A、B社も私も法律問題はやはり最終的には行政手続ではなく司法手続の中で決着をつけるべきと考え、行政訴訟を提起することにしたのです。
早々と事の顛末だけを書いてしまうと、私どもが東京高裁に行政訴訟を起こすと、すぐに東京都は和解を申し入れてきました。正確にいうと、課税処分を取消し、還付加算金(要するに利息のことです。)を付けて全額返還するので、訴訟を取り上げて欲しいと申し入れてきました。事実上、都としては課税処分が間違っていたことを認めたことになります。
次回最終稿では、訴訟提起までどのような準備をしたのかということ、共有建物の分割と地方税法第73条の7第2号の3の適用についてポイント、弁護士業務の行政救済への拡大ということについて触れたいと思います。
以上
|